教員の変形労働時間制で減るのは「見かけ上」の超勤時間

10月18日に公立学校の変形労働時間制が閣議決定されました。教育現場はますますブラックな労働環境になるのではと懸念されています。国の目的や教育現場の声をまとめてみました。

 

Point
  1. 教員の労働時間が8時間から10時間くらいまで拡大可能になる。
  2. 国の目的は、教員の見かけ上の超勤時間を減らすこと。
  3. 教員の実際は忙しいまま変わらない。

 

変形労働時間制とは?

教員の労働時間は、労働基準法により1日8時間、週に40時間までと決められています。これを、1年間を平均して週に40時間になるならば、1日8時間を上限としない制度が変形労働時間制です。

教員の業務には繁忙期と閑散期があるとしてこの制度が導入されました。例えば、繁忙期の4-5月は17時の定時を19時にして、7-8月の定時を17時から15時にして帳尻を合わせることができます。

通常期に教員は17時に退勤することはほとんどできません。1日あたり2-3時間の労働超過をしてしまう教員は少なくありません。そこで定時を19時にずらすことで、見かけ上の超過時間は減ります。これが国の狙いです。

文部科学省は「地方自治体の判断により導入することができるような制度改正を検討すべき」として、次の二つの例を示しました。

例1 長期休業期間中に年間15日の学校閉庁日を設け、学期中は毎週3日間、8時間45分勤務とする。

例2 長期休業期間中に年間20日の学校閉庁日を設け、学期中は毎週4日間、8時間45分勤務とする。

しかし、教育現場からは「現実的でない」としていくつもの懸念点が挙がっています。

 

制度運用の懸念点

懸念点1:教員に閑散期はほとんどない

この制度が導入さてた前提として、教員も生徒と同様に「夏休み」が取れることが挙げられます。確かに、8月は平常授業がありませんので、通常期よりも業務は減ると思われるかもしれません。

しかし、生徒の夏休みの期間には部活動や勉強会、研修があります。生徒の登校日や行事もあります。進学校でしたら夏期講習の実施も求められます。教員には閑散期はほとんどないのです。

世間的には部活動は「任意」と思われているかもしれませんが、現場にいる私からしたらそうではありません。保護者や先輩先生からは、部活動をやらない教員は「ダメ教員」の烙印が押されてしまいます。管理職も、部活動をやる先生がいなくなると困るのでどうにもできないのだと思います。

中学校教諭 27歳 女性

 

懸念点2:繁忙期の忙しさが加速する

事実、教員の繁忙期の4-6月は本当に忙しいです。新年度のクラス・学年運営、考査に向けたカリキュラムの遂行、体育祭や修学旅行などの行事対応、部活動の大会など、この時期は業務量が1年の中で最も多い時期。多くの先生は定時に退勤することはできす、20時過ぎまで残って業務を消化させます。

この制度は、その忙しさを認めてしまう制度です。毎日20時過ぎまで残って仕事をするのは過酷です。この時期は教員の自殺率が最も高い時期です。

さらに、お子さんを保育園に預けている先生にとっては働きにくくなります。19時過ぎまで子どもを預かってくれる保育園はなかなかありません。転職を余儀無くされる先生も出てくるでしょう。

 

懸念点3:業務削減の議論が軽視される

昨今は〇〇教育という名の教育改革がいくつも施行されようとしています。プログラミング教育、英語教育、キャリア教育など、教員だけでは対応できない事態になってきています。

新しい教育がどんどん現場に導入されようとしています。生徒のためと思って、勉強会や研修会にたくさん出ています。しかし、休む時間がありません。優先順位を決めてやらないことを決めないと、学校が、組織が放火してしまいます。

小学校教諭 38歳 男性

今の教育現場や教育制度には、スクラップ&ビルドという考えが欠如しています。何か盛り込むのであれば何かを削らなくてはなりません。なのに、部活動もやる、プログラミングもやる、受験指導もやる。これでは定時内に仕事が終わりません。

何かを削るという議論を早急にしなければならないところ、この制度の導入によってその議論が軽視、先延ばしされるのでは?と懸念されています。

 

本当の働き方改革を!

この制度導入は働き方改革の一貫ですが、現場の現状を鑑みて運用を考えてみるといかに的外れでナンセンスだということがお分かりいただけたでしょうか。

教員を志望している学生が「教員は休みを取りやすくなるんだな!」と勘違いをしてしまうのは危険です。後に「こんなはずでは!」と感じたり、ブラック労働で体調を崩しかねません。

ただでさえ教員の転職が増えています。それも先生が本当に望むなら全然悪いことではありません。

教師・教員のおすすめの転職サイト・エージェント

 

しかし、教育現場の人材はどんどん薄くなってきています。本当の働き方改革をして業界の今後を考えるべき時です。「何が本当に必要なことか、何をやめるか」のスクラップ&ビルドの議論をすることこそ、教員の働き方と教育の質向上につながります。

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